◇20年以上経過したモデルですから至る所に打ち傷やその他修正すべきところがありました。木部は完全剥離ではありませんが大きめの打痕は大方修正し、傷はある程度残ることは覚悟で全体をあくまで薄い塗膜になるようにカラーリングを施しました。t.m.p-Tune は傷よりも音質重視ですから、やはり作業のメインは根本的な材のコンディションを高め、鳴りの設定を最適なものに作り替える作業です。
よくリフィニッシュ・モデルとして見かける楽器がありますが、基本的な設定が鳴る設定に作り替えられていないので見た目上がキレイになっているだけですからチューンナップとは作業結果が全く異なります。基本設定はそのままで塗膜を厚めに吹き直してバフ磨きをガンガン掛ければどんな楽器でも見た目はツルピカですが、基本的にはわざわざ鳴らないようにしているようなものです。
ヘッドの捻れが付き物のギブソン系モデルですが、この単体はネックも太めではない為、ヘッドの捻れ修正でヘッド厚を落とすことで捻れの影響が今度はネック本体に及んでしまう事を避けて、ゴトー製のテンションアジャスタブル・オートロックペグを採用する事で左右の弦穴位置のバランスを整えることでバランスをまとめました。 ネックの指板上面角の変更は勿論、長時間燻煙処理で長年のうちに材に蓄積された湿気を抜き去り、材の繊維強度を高めてあります。元々ライト傾向のボディでしたがトリプル燻煙(16時間×3セット)で更に重量が軽くなりレスポンスは抜群です。その分ちょっと赤字収支ですが。(^_^;)
ひとつだけこの単体で困ったのは指板端末の左横のトグルSW方向に元々打痕による塗膜の剥がれが有りまして、どうやら前の所有者はフィンガー・○ーズと思われる指板上面の滑りを良くするスプレーを多用していたらしく塗装の剥がれた部分から下の木部に染み込み続けていたらしく、そこだけ材を乾燥させるに連れ内側からシミが浮き出てきました。塗装完了後に出てきたモノですから今更どうしようもないのですが、あの手のスプレーを使用する際はくれぐれも指板やその他の部分にはかからないように布などで覆って弦だけにしてあげてくださいね。この単体の指板も削り修正を行ったので問題はありませんが、フィンガー○ーズ系を使用しすぎた楽器は指板材がジメジメしていてフレットも簡単に抜けてしまう程です。使い過ぎはいつの間にか楽器のコンディションを劣化させ寿命を縮めますからご注意くださいね。
レスポールの配線引き回しは非常に長く、全体では1m50センチ程にもなりますのでtmpでは特に線材には気を遣います。手作業でハイクオリティなクライオ処理をした薄銅板を折り畳んで作製したフラットケーブルと40'SのWEワイヤーの混合材で引き回し劣化を最小限に留めながらも非常に上質なトーンを備えさせています。コンデンサーも一般には知られていないハイエンド・オーディオ向けの私のお気に入りを採用しています。このコンデンサーの値段だけでもCD買えちゃいます。
弦はアーニーの011~048・ゲージで調整済み。「弦、太いんだなあ~」って、お思いでしょ?ところが、ちっとも指にきつくはないんですよ。ライトウェイトの良く響くボディにこのくらいのゲージを張るとブライトでレスポンス感が心地よい楽器になるんです。ピックアップは共にtmpのクライオ/PAFF ですが、フロントはノーマル・ポールピースでリヤーはロング・ポールピース仕様にしてあります。こうするとレスポールでもセンターミックスのサウンドが生きるんです。なるべく口径の大きなスピーカーを真空管でドライブさせて弾いて頂けたらと思います。参考までに、実はギターでは6弦の開放弦のローエンドが90Hz台まで出ているのですが定番のアンプ達ではスピーカーユニットが30センチ以下の口径ユニットが採用されているものが多く、どうしても低域の再生レンジが100Hzを切れない為にローエンドの倍音は殆ど再生できていないんです。30センチのユニットでも一番低い再生レンジは110Hzがいいとこなんです。理想は15インチ/38センチのユニット1発で鳴らすのが一番音はバランスされていいですよ。なぜなら38センチクラスでは下が70~80hzあたりまで再生できますからギター全域倍音が再生可能なんです。ツインスタイルのアンプで30センチ2発で鳴らしても全域再生は出来ませんから、ギターのローエンドの倍音は再生できないままなんです。エレアコの再生システムにもこれと同じことが言えます。音に厚みが出ないのはローエンドの倍音が出ていないから基本的に音が薄いのです。その上に音の厚みを増そうとアンプのローを持ち上げるとローエンドは出ないままミッドロー・レンジだけが持ち上がってしまうので生音に対してアンバランスなブーミーなサウンドしか得られないのです。本当はローエンドまで再生可能なシステムで再生すればベースを持ち上げなくても豊かな厚みのあるサウンドで再生出来るんですよ。単に38センチなどの大きなユニットは製造コストが高く付くのでメーカーは採用しないんです。tmpでサウンドチェックに38センチのベースアンプを使用するのも全域チェックを行うためなんですよ。ご参考までに。
以上、このギターは元々のパーツでまだ使用できるピックガードやリヤーパネルなどはそのまま流用致しましたが、その他は全てカスタム製作用のスペックでまとめてあります。一見、単なるユーズド・レスポールですが、内容はバリバリにカスタマイズされた1本です。現在はYさん所有です。 06年1月完成